「誰に降る雨」
向こう側に黒い雲があって、ゆっくりと西へ流れている。
その下は強い雨なのか、時折稲妻が光り、そして近づく気配はない。
私は海の方向へ車を走らせていた。
サンルーフを1/3開き、95年の Pat Metheny を聴いている。
三曲目だったか「To The End Of The World」というものがあって、タイトルが好きではなかった。
トンネルに入る。
耳の辺りが押される。
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何時だったか上海で、元紅衛兵だったという男に会った。
今でも語録を持っているか、と尋ねると、勿論そうだと言う。
あれはひとつの物語。甘くて苦い夢のようなものだった。
外灘(バンド)の雑踏の中で、彼はそういう。
それからどうしたの。
友達は沢山死んだ。わたしの子供も。
それから地下道をくぐり、彼のパサートに乗り込む。
上海の雨は土に染み渡り、それが水路になってゆく。
猿のような顔をした男や女が、信号で停まる車の傍にかけよって小銭をせびる。
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ワイパーのゴムが汚れている。
少しだけ吹き残しがある。
そうは言っても、物語は終わっている。
ここから先は未練とか自分だけはという、とるに足りない虚栄の世界に入ってゆくのである。