2007年02月20日

ホームレス作家

黒崎@ホームレス作家


松井計氏に同名の作品がある。
一年に文庫本が3冊、新書が1冊。合計部数が55000部を出している現役作家が、ある日住む家を追われるというノンフィクションである。
爾来7ヶ月、路上生活を送る。
彼には妻子があった。妻子は行政の手に委ねることになる。

「しかし、実は私は失業者ではなかった。私には文筆業というれっきとした職があり、それも元や自称といった特別の冠を付す必要のない、現役の作家なのである。
半年前には400ページに及ぶ長編小説が刊行されていたし、この時点でも、長編の書き下ろし小説を二冊、書き下ろしアンソロジー用の短編小説一本の依頼原稿を抱えていた」(「ホームレス作家」松井計著:幻冬舎アウトロー文庫:31頁)

作者は昨年の収入の分析を始める。
500万。うち400万が昨年刊行された書籍による印税収入。
残りが非常勤講師を務めていた専門学校からのそれである。
作家の収入は大きく分けてふたつ。ひとつは原稿料であり、残りは印税。
印税率は7〜10%。最大で15%が普通である。これは小説の場合。
「500万という金額が作家の収入として多いのか少ないのかは分からない。
同業者の大半はこの程度か、それ以下の収入しかないのもまた事実なのである。どの世界でも、僅かの頂点の下には、無数の底辺が存在するのだ」(前掲:32頁)

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仔細は読んでいただくにこしたことはないが、解説は小嵐九八郎氏である。
「夜話」の中では「風に葬え」に名前は出てくる。
http://kurosaki-yowa.seesaa.net/article/24546804.html

原稿依頼などと言っていても、書きあがってから没、もしくは事情変更で出せないなどということはザラ。確約ではない。
読み手よりも書き手の方が多いこのご時世に、本は売れずすぐに作家予備軍に戻される。編集者の機嫌をそこねたら仕事はこない。
作家というのはいわゆる水商売の先端なのだ、と小嵐氏は指摘されていた。
松井氏の同作にも、この辺りの編集者との微妙なやりとりが描かれている。

知人友人に金を借りる。古本のセドリをしてしのぐ。
自費出版専門の会社で短期間のアルバイトをするが、すぐに首。
業界を裏側から眺めたことになる。
妻子を預けた福祉課ケースワーカーとのやりとりも生々しいが、松井氏の文章には不思議な清潔感があった。
それは何処からくるものなのか。

吉祥寺のデニーズで朝まで原稿を書く。
100円ショップで買ったそれである。ずっとワープロやパソコンを使っていたものだから、原稿用紙に馴染まない。
「私は本稿を遺書のつもりで書き始めた。そして稿が進むにつれ、もし、路上に斃れることなく脱稿することができたとすれば、必ず、それは新しい出発に繋がると確信するようになった」(前掲:307頁:あとがき)

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posted by 黒崎 at 06:28 | TrackBack(0) | 夜話 | 更新情報をチェックする

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