一杯目の酒。
を何にするかで迷う。
この時間、私は首都圏にいないのだが、こちらも雨である。
すこし寒い。
冷蔵庫から青い瓶のジンを取り出してショット・グラスに注ぐ。
若い頃、港区の森の見える古いビルの一室で、作りつけの棚に酒瓶ばかりを並べていたことがあった。エレベーターのないビルだったが、不思議にディスポーザーがついていて、屋上に昇ると東京タワーが見えた。
金がなく、ジンと安いウィスキィばかりである。
ベルモットを混ぜて飲めばどうにかなる。
それで覚えた。
サボイのカクテル・ブックなんてものを買って、あれこれしていたのもその頃だった。
フローリングの床に置いたテレビで、市川雷蔵や網走番外地などのビデオを眺める。日活も勿論である。
休日になると車を出した。
横浜新道の角から女の部屋に潜り、風呂に入って空を見上げて帰る。
「なにをしにきたのよ」とか言われ、それもそうだと思った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
近頃酒場にゆくと、このジンが棚一杯に並んでいることがある。
販促の賜物なのだが、どちらかと言えば混ぜるには癖があって、そのまま嘗めた方がいいような気もしている。
【関連する記事】