吾妻ひでおさんの「失踪日誌」を誰も居ない夜更け、ソファにひっくりかえって再読する。
吾妻さんと言えば一部マニアからは熱狂的な支持のある漫画家である。
SF奇想天外で特集号が随分と前にあって、若造の頃買った覚えがあった。
原稿落として失踪し、そのまま旅の人になる風景。
そこからガスの配管工になったりして、最後は家族にみつかる。
あるいはアルコール中毒になって病院に入る。
リアリズムで描けばどうしようもないところを、あの丸っこい絵でたんたか描いてゆくのだから仕方がない。
救い難いというか最後まで抜けないものは観察眼であって、どういう状態であっても眺めてしまう。自分の姿も見えるのである。
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そういえばつげ義春さんの漫画にも、最悪の事態の際に「夢もチボーもないですよ」とか主人公が言う場面があった。
本来は「夢も希望も」であるのだが、そこを「チボー」と書いてしまう。
これが作品を作品たらしめている距離感で、本人にとって最低最悪の状態というのは、その底に不思議なおかしみが潜んでいるものだからである。
つげさんの漫画については、権藤さんが仔細な論評を書いているが、端的に言えばなかなかの遊び人。その底にザラリとしたものを抱えている方であろうと私は感じている。